霊魂って何?
霊魂って何?
弦巻マキ
「あ、ゆかりん、おはよ……」
結月ゆかり
「マキさん、やけに具合が良さそうですね……いったいどうしたんですか?」
弦巻マキ
「じつは明日、おじいちゃんの三回忌なんだよー。わ、私、おじいちゃんっ子だったから、なんか悲しくなっちゃって……」
結月ゆかり
「そうなんですね。でも、あまり悲しむことはないですよ。お祖父様は、きっとマキさんの傍にいらっしゃいますから。……そう、今もきっと」
弦巻マキ
「え、どういうこと?」
結月ゆかり
「そのままの意味ですよ。人間の本質というものは肉体ではなく魂ですから。肉体が亡んだ後も、魂は残り、そして縁ある人をいつも見守ってくれてるものです。
悲しむ必要なんてないんですよ」
弦巻マキ
「ん〜〜?? そうだといいけどなぁ……」
*ゆかりは語りはじめた*
結月ゆかり
「人の肉体は、人の本質ではないのですよ。人といえば、その体のことを思い浮かべる方も多いかと思いますが……。
別にそういうわけではありません。なんでって? 人の体は、物質でできています。炭素とか水素とか、そういうアレですね。しかし、物質というのは、本当は存在しないのです。
実在しない幻影なんです。
私たちは、夢の中で遊んでいるも同じです。マキさんはこういう言葉をご存知ですか。常世(とこよ)、現世(うつしよ)という言葉です。常世というのは霊の暮らすあの世のことです。が、昔の人は、あの世こそ永遠に変化しない世界と考えました。
だから『常』世です。そして、現世とは人間の住む世界です。現世は影のような物質でできていますから、いつも移ろって隙あれば壊れてしまいます。
永遠に輝き続ける常世の光に映しだされ、束の間に現れた影の世界……それが、ここ、『現世』なんですよ」
弦巻マキ
「ええ?! なんか面白いね。でも……そんなこと、あんまり考えたことなかったなぁ」
結月ゆかり
「まぁ、『死後の世界』があることを、漠然と考えている人は結構いると思いますが……あまり具体的に考えたことのある人は少ないでしょうね。
何せ、人間の目には、霊も魂も見えないんですから。マキさんが知らなかったのも仕方ありません。
けれど、死んだ後にも命はあるんです。いえ……そこからやっと、本当の命が始まると言ってもよいかもしれません。マキさんのお祖父様は今、きっとご存命の時より何倍も元気でいらっしゃいますよ。
マキさんのことも、見守ってくれているはずです」
弦巻マキ
「ありがとう、ゆかりん! んーー……でも、死んだあとのほうが元気? って、どういう事?
よく分かんないんだけど……やっぱり、死んだあとは、なんか青白い顔で元気なさそうな気がするなぁ」
結月ゆかり
「それは偏見というものですよ、マキさん。確かにそんな霊もいるかもしれませんが……そういうのは何かあった低級霊でしょう。
そういった低級霊は、地球にほど近い幽界の領域にいるので、一般の人でも目にする機会がありますからね。だから、霊といえば不健康そうな姿を想像する人が多いんでしょう。
でもすべての霊がそうではありません。むしろ大抵の霊は、死んで初めて、本当に生まれた気がするそうですから。『生きて』る時は、人は物質という影に閉じ込められています。
目に見えるのは物質だけです。耳に聞こえるのは、物質が振動する音だけです。霊や魂は見えませんし、声も聞こえません。近くに、たくさんの縁ある魂が、霊が、見守ってくれているのに、それでもまったく気づけない――と、いうのが普通ですから。
でも、そういう背後霊……というか、守護霊がいない人は、いないそうですよ。どの人にも、後ろに見守ってくれてる霊がぞろぞろと列を作ってついてきているそうです」
弦巻マキ
「あははははは! おもしろーいっ」
結月ゆかり
「ですので、マキさん、おじいさまの死を悲しむことはないと思います。むしろ、死は、体から魂を解き放ってくれる、ありがたい出来事ではないでしょうか。
がんばって、がんばって、少しでも長生きしようとしてる人がいますけど……そんなことをして、どうするのでしょう。きっと、死んだらすべて終わると考えていらっしゃるのでしょうね。
死んだら終わりなのだから、生きてるうちに楽しまなきゃ損だと。一秒でも、長く生きなきゃ損だと……。でも、そんなことをする必要があるんでしょうか? 現世――物質でできた宇宙にこうして生まれているのは、ほんの一瞬、夢を見ているようなものです。そんなに刹那的になって、どうするというんでしょうね?」
弦巻マキ
「ふぅむ……確かに、死んでも終わりじゃないっていうなら、なんとなく焦らなくて済むなぁ」
弦巻マキ
「……ん? でもゆかりん、そんな風に考えたら、みんなすぐ死にたくなっちゃわない? 死んでも終わりじゃないなら、生きててもつらいだけだし死んじゃおー!
みたいな人が増えちゃいそうだけど……」
結月ゆかり
「それはまずいことです。だからこそ、人は死を恐れる本能を持っているんです。簡単に死んでは困ります。それに、自殺は絶対に止めて下さい!
確かに、現世は影で、死後こそが本当の世界と言いましたが……だからといって、現世の人生をおろそかにしていいとは一言も言ってませんよ! むしろ、その逆です! 霊の世界から現世に生まれてくるのは、魂を成長させるためです。
例えるなら……学校に勉強しに来ているようなものでしょうか。それが、勉強がやりたくないからと言って、途中で放り出したらどうなりますか? 怒られちゃいますよね。それと同じことです。
生きてる間は、毎日を一生懸命生きるべきです。日常的な事を、おろそかにすべきじゃないです。いつか死んで、霊の世界に戻れることを楽しみにするのは良いですが……無理に時期を早めて死を選んだりしたら、大目玉を喰らうだけですよ!」
弦巻マキ
「なるほど……たしかに自殺はよくないね。ありがとゆかりん、なんか元気出たよ。
……まぁホントは、私のおじいちゃんピンピンしてるんだけどね」
結月ゆかり
「……は?」
弦巻マキ
「ゆかりんにかまって欲しくてウソついちゃった〜、ゴメンネ♡」
結月ゆかり
「せ、せっかく心配してあげたのに……もう許しませんよ、マキさんっ!」
宇宙創造の目的って?
*深夜、幻想郷・博麗神社境内で寝転がる霊夢と魔理沙*
霧雨魔理沙
「ん~、すごい星空だなぁ。なんだか心が洗われるようだぜ」
博麗霊夢
「あら。あんたにしては、詩的な事を言うのね魔理沙。そう言う事なら少し、面白い話をしてみましょうか。
この星空は――この満点に広がる宇宙は、いったいなんのために生まれたか、なぜそこにあるのか……知ってみたくはない?」
霧雨魔理沙「おぉ!? なんかよくわかんないけど、面白そうだな。いいぜ!」
*霊夢は語り始めた*
博麗霊夢
「この宇宙はなんのためにあるの? あんただって、一度くらいはそういう事を考えたことがあるでしょう? ある人は、ビッグバンという爆発で偶然生まれたと言っている。ある人は、神様が七日で創造したとか言ってる。
でもどれも、欠けてる説明だと思うわ。この精密に作られている宇宙が、まったくの偶然にできあがったですって? ナンセンス極まりないわ。神様が七日で創造? そんな単純なおとぎ話で満足するのは、いまどき子どもくらいでしょう。
ほんとうは、もっと簡単なこと。この宇宙は、あんたが色々な体験を通じて成長する、そのための広大な体験場……広大なゲームのフィールドみたいなものなのよ」
博麗霊夢
「今から、ビックリするかもしれないことを言うわ。あんたは、自分が生まれたのは今の人生がはじめてと思ってるかもしれない。自分が生まれる前には、自分なんていなかったと思ってるかもしれない。
もしかしたら漠然と、『前世があるかも』――と思ってる人もしれないけど。それでも、具体的に前世を想像できる人なんて、あんまりいない。でもね、本当は、『前世があった』どころの話じゃないわ。
あんたという存在は、あんたという魂は、この宇宙の誕生と同時に……いえ、それよりずっと以前から、無限の過去から存在し続けてきた。なぜなら、あんた自身が創造主……創造主の一部だから。
何億年という期間をかけて、すでにいろいろな体験を、あんたはいろいろな形で積み重ねてきたのよ。ただ、今はそのことを忘れているだけ。粒子や分子、空気や火、水や土、細菌やアメーバ、植物や動物――いろいろな形をとって、気の遠くなるような肉体の進化と魂の成熟を経て、いまあんたはここに立っている。
……寝てるけどね。
ねえ、人間が、どれだけのものを手に入れてきたと思う? 抽象的な思考力、自我、社会性、直立二足歩行、よく見える目、ものを掴める手、複雑な発声器官……そんなすぐれたものを手に入れて、精神と肉体を進化させて、ようやく今、ここに人という形で存在できているのよ。
ある日突然、あんたの魂や肉体が生じたんじゃない。あんたが人間としてここにいるのは、長い長い旅路を踏破してきたという証拠。あんたが、正当な努力をしてきたということの証明だわ。
……でも、まだまだ旅路が終わるわけじゃない。あなたという存在は、こんな短い人生一回で終わるわけじゃないわ。あんたはこれからも、何度も何度も、何十億年という時をかけて、だんだんと、けどいくらでも成長していくの」
霧雨魔理沙
「ふ~ん……で、それが宇宙と何の関係があるんだ?」
博麗霊夢
「いま話すとこよ。いいかしら。魂の進化の階段を登るたびに、あんたは少しずつ、少しずつ、人間的な欠点を取り除いていくでしょう。
その代わりに、もっとすぐれた資質で置き換えていく。もちろん、そう易々とはいかないわ。これまでがそうだったように、気の遠くなるような……いえ、それどころか無限の時間がかかるでしょう。
けれどあんたは、私たちは、いずれその時間という枠すら超越することになる。そして、この無限の宇宙でなすべき体験をし尽くした時、完全な存在へと戻る。つまりは、この宇宙を生み出した創造主と、一体に戻るでしょう。
宇宙は、私たちがそういう営みをするために、作り出した場所というわけ」
霧雨魔理沙
「へぇ……そうなのか。でも、うぅ~ん……。なんで、『体験』なんかする必要があるんだぜ?
だって、そんなすごい創造主なら、そのままでいればじゃないか? わざわざ、なんで体験なんてしてるんだぜ?」
博麗霊夢
「なら、ちょっと想像してみなさいよバカ」
博麗霊夢
「創造主というのは、無限の存在なの。……いっておくけど、無限というのは、『たくさんある』ということじゃないわ。そうじゃなくて、『あらゆる要素を含んだ』『統合した』という意味。
大きいのも小さいのも、男も女も、叡智も無知も、愛情も憎しみも、すべてをその中に含んだ存在。想像してみて。そんな完全な存在がいたら、いったいどうなると思う? 何をしたくなると思う?
完全でいるのは、楽しいかもしれないけど、いつかは退屈で飽きてしまうでしょうね。そのうち、『無限』の自分にいったいどんな可能性があるのか、試してみたい――そう思うようになるのではないかしら。現に、そうなの。
だからこの宇宙は、創造主のための体験場なの。無限の創造主が、自分自身を無限の構成要素に分割して、単原子からはじまりふたたび創造主に戻るまで、無限の旅路を体験する事……それによって、自身の無限の可能性の一端を知る事。
創造主による、創造主自身を知るための、広大な体験フィールド――それこそが、この宇宙の正体。私たちが、宇宙に暮らしている根本的な理由だわ。
私たち一人一人が、創造主の子どもみたいなものなんだから。いずれ、元に『戻る』のは当然でしょ?」
霧雨魔理沙
「なるほど……スケールがでかすぎてよくわからんけど、分かったぜ」
博麗霊夢
「ほんとに? ……なら、星空を見上げた時だけじゃなく、いつでもそのことを心に留めておきなさい。
私たちは、無限に長い旅路を歩いている旅人のようなモノ。この宇宙は、そのために用意された旅路。私たちはけっして、宇宙の片隅に偶然生まれた、ちっぽけなどうでもいい存在じゃない。大きな目で見れば、後にも先にも、私たちのために用意された無限の体験が広がっていることが分かるはずよ。
今の人生が終わったら、また次の体験が始まる。そこで、私たちは好きなだけ色々な体験をすることができる。時間制限なんてないわ……だって無限だもの。もちろん時間を無駄にしていいと言っているわけじゃないわ。でも、今のあんたに、一生懸命やっても果たせなかったことがあったとしたら、それは次の旅で必ずまた挑戦することができる。
苦しいことがあったとしても、いずれは乗り越えて、癒えて、また別の体験がはじまる。乗り越えられないほどの難題を課せられることはありえないわ。だから、小さなことでくよくよする必要なんてないのよ。
いい? そんなつまんないものを、あんたの心に詰めようとしないで。その代わり、この星空を、いつでも心の中に敷いておいたらいいのよ」
*その後もしばらく、二人は縁側に寝転がり、星空を眺め続けていた。*