悪魔
悪魔
結月ゆかり
「マキさん、ニュースを見ましたか。中東がすごいことになっていますね。あそこは、いつも戦争ばかりです」
弦巻マキ
「あ~見た見た!
で、それからさー、この近くで殺人事件あったじゃん?
朝から気分悪くなるニュース二連続で、やんなるよね〜」
結月ゆかり
「そうですね。悪はどこにでもあるようです」
弦巻マキ
「うーん……でもゆかりん、宇宙は完璧な創造主が作ったんでしょ?
だったら、なんで悪いことがこの世にいっぱい起こるのかなぁ?
悪いことをしないように、人間を作ればよかったのにって思うよ」
結月ゆかり
「おや、面白そうな話題ですね。いただきました。
今日は、すこし、悪について話してみましょう」
*ゆかりは語り始めた*
結月ゆかり
「突然ですが、マキさん、悪とは何でしょうか?」
弦巻マキ
「え!?
あ、あらためて言われると困るなぁ。うーん、なんだろ……?
……ま、まぁ、良くないことのことじゃないかな!」
結月ゆかり
「なるほど、的を射た表現ですね。
……いえ、別にバカにはしてませんよ。むしろ、今のマキさんの単純な言葉の中に、実は大きな真理が隠れています」
弦巻マキ
「え!? なになに、どゆこと!? 私って実はすごい!?」
結月ゆかり
「悪いことは、良くないこと。
逆に言えば、良いこととは、悪くないことを指します。
つまりですね。私が言いたいのは、何が『良いこと』なのかは、何が『悪いこと』なのかが分からない限り、理解できないということです。
別の言い方をすれば、『良いこと』を定義するには、『悪いこと』の存在が必要だということです」
弦巻マキ
「え? ……ん〜、分かったような分からないような」
結月ゆかり
「別に、善悪に限った話ではないんですよ。
この宇宙は二極性を基本原理として成り立っている世界です。
プラス極の逆にはマイナス極があり、上の逆には下があり、破壊の逆には建設があり、叡智の裏側には無知があるのです。
それは、一方の極がもしなかったら、他方の極もなくなってしまうということです。
マキさん、もし物質宇宙に原子が一個しかなかったら、どうしますか。
その原子について、それが『上にある』のか、それとも『下にある』のか、という事を決めることが、果たしてできるでしょうか。
決めることはできないはずです。なぜなら、上とは『下にある物体にくらべて』上ということであり、下ということは『上にある物体にくらべて』下にある、ということだからです。
もしこの世の中に物質がひとつしかなければ、上とか下を決めることはできないんです。
つまり、比較対象がなければ、何事も分からないんです。
善いこと、悪いこととも同じです。
私たちが『善いこと』を知り、その方向に進んでいくためには、『悪いこと』も必要不可欠なんです。
人は、知りもしないことに対して努力することは出来ないですよね?
ですから、『悪いこと』も、いつかの時点で体験しておく必要があります。
過去生のなかで、『悪いこと』をした経験がない方はいないはずです。もちろん、私もマキさんもそのはずです」
弦巻マキ
「ふぅん……そうだったんだ。
悪いことにも、それなりに意味があったんだね……。
でも、そう言われても、嫌なことが世の中にいっぱいあると、なんか気分が沈んじゃうなぁ……」
結月ゆかり
「ええ。
ちょっと世の中を見渡してみれば、『悪いこと』はいくらでも転がっていますよね。
戦争、差別、搾取などといった社会悪の数々……
泥棒、殺人、放火など犯罪の数々。
傲慢、不寛容、無知など、人の心の中にもそういったことはたくさんあると思います。
はっきり言って、ひどすぎて目を背けたくレベルですよね。私だって、必ずしも人のことは言えないわけですが……。
けれどそういったとんでもない悪があるからこそ、その中から、考えられないほど素晴らしい善が生まれるんです。
ですから、究極的には、『悪いこと』などこの宇宙には存在しないとさえ言えるでしょう。『悪い』と思えることが、より大きな『善』を生み出してくれるんですから。
ですから、『悪事』が世の中に多すぎるからと言って、絶望したり厭世感を持つのはやめたほうがいいです。
そして、自分が『悪いこと』をしてしまったとしても、くよくよ後悔しないでください。
その『悪』がなかったとしたらありえないような『善』が、そこから生まれるんです。
『悪いこと』が世の中にたくさんあるというのも、創造主の完璧な計画のひとつなんですよ。
創造主の善意を信じて、『悪いこと』が起きたら、してしまったら、そこから教訓を読み取るようにしましょう。
『悪いこと』を教材にすることで、私たちはすごいスピードで成長することも可能です。
といっても、それもやはり、私たち一人一人の行動次第でしょうね。
悪いと分かっていながら、そのまま放置してしまう方も多いものです。私自身、そのことに気づくまでに、多くの歳月を費やしてしまいました。
『悪事』から得られる教訓を活かしていくこと……それを怠ることこそが、むしろ創造主の計画に反する『悪』ではないかと、私は思います。
論語にもそう書いてあります。
『過ちて改めざる、是(これ)を過ちという』……って」
弦巻マキ
「なるほど……嫌なこともいっぱいなのも意味があったんだね……!」
結月ゆかり
「もちろんですよ。
この宇宙に存在するもので、役割や意味を持たないものは、そもそもないんですから。
ところで話は変わりますが、『悪魔』というものがいますよね。代表的なものでいえば、ルシファーとかサタンとか言う存在です」
弦巻マキ
「あぁうん、聞いたことあるよ。有名だよね。それもなんかあるの?」
結月ゆかり
「はい。
悪魔というと、神と対立する者、神に戦う者……というようなイメージも強いかと思います」
弦巻マキ
「あーたしかにねー。
ゲームとかアニメとかでよく見るかも」
結月ゆかり
「それも、やはり間違いなのです。
もし、創造主と対等な立場で対抗する悪魔などがいるとしたら、創造主は完璧な存在ではないということになってしまいますよね。
もちろん、そんなことはないんです。
悪魔というのも、やはりそれなりの存在意義をもって、創造主により意図的に生み出されてきたのです。
それはもちろん、悪が存在することで、私たちはそこから抜け出そうとすごいスピードで進歩を始められるようになる……と、いう点でしょうね。
悪魔とよばれる存在こそが、実は他の何よりも、人間に光の明るさを教えてくれる存在だった……というわけです。
なんだか面白い話ですよね。
そう考えると、私たちは、胸をむかむかさせるような酷い悪人に対してこそ、むしろ一番感謝しなくてはいけないかもしれませんよ」
弦巻マキ
「なるほど、深いなぁ……うん、なんだか一歩大人になった気がするよ!」
結月ゆかり
「マキさん、ただ聞いて分かった気になってるだけでは、なんの意味もないんですよ。
ぜひ、『悪』が与えてくれる教訓を、日々、実際の行動で活かしてみてくださいね」