2つの極性
2つの極性
弦巻マキ
「うーん、電荷は正電荷と負電荷の2種類あって……電子が移動して電流が、仕事が……ブツブツブツブツ」
結月ゆかり
「マキさん、さっきから物理の勉強でもしているのですか?」
弦巻マキ
「うん、そーだよー。センターももうすぐだしね〜」
結月ゆかり
「というか、私達って
まだ学生だったんですか? まぁ、どうせこの場限りの設定でしょうからどちらでもいいですが……。
ところで、電荷が特定の原子に偏っていることを『極性』といいますよね。
実は、そうした物理的な電気だけではなく、世の中には精神的な、非物質的な、人間が未だ観測していない電気も存在しています。
私達の魂も、その霊的電気による極性を帯びている……と言ったら、マキさんしはどう思われますか?」
弦巻マキ
「えっ、何それ!? 意味分かんない!」
結月ゆかり
「実は、この極性をみにつけることこそが、私達が人間の形をとって生まれてきたことの最終目標でもあるんですよ。では、説明しましょう」
*ゆかりは語りはじめた*
結月ゆかり
「『極性』については、『ラー文書』で詳しく語られているので、そちらを参考にしていきましょう。
正電荷側が電子を外に放ち、負電荷側が電子を受け取るというのは、マキさんはご存知ですよね」
弦巻マキ
「うん! 今、勉強したばっかだからね」
結月ゆかり
「では話が早いです。
非物質的電気も、私達の知っている一般的な電荷と同じく、陽極側は外に放ち、陰極側は受け取るという仕組みのようです。磁石のN極とS極にも似ている、と言えるでしょうね。
しかし霊的な領域のそれが放つのは、電子でもなければ磁力でもありません。
それは、『愛』です」
弦巻マキ
「何故そこで愛ッ!?」
結月ゆかり
「愛というのは、宇宙の基本的な構成要素なんですよ。
魂の極性は、つまるところ、『他人に愛情を向けるのか』、それとも『自分に愛情を向けるのか』という点に尽きます。
他人に奉仕するのか、それとも自分に奉仕するのか、と言い換えてもいいでしょう。
愛はこの宇宙、創造主の基本的な構成要素である以上、私達はいずれ愛を身につけなければなりません。
私達がこの人間界、物質界を卒業し、さらに上の領域……密度*に進むには、『他者への愛』『自己への愛』少なくともどちらかを極めなければならないようです。
分かりやすく言えば、私達は人生という体験を通じて、他者を助け労ったり、あるいは自分を高め努力すること……
そういった実際の行動を通じて、自分の中に『愛』が育ったことを証明してみせなければいけないんですよ」
弦巻マキ
「愛かぁ……なんか難しそうだなぁ。
具体的にどんななの? あんまりイメージつかないなぁ」
結月ゆかり
「では自己奉仕――陰極側から行きましょうか。
自分を愛するというとナルシストみたいですが、そういう意味ではありませんよ。
自分自身が創造主の分霊であり、この物質界に魂を成長させるため生まれてきたのだのさということを、はっきり自覚することになります。
ですから自己奉仕に目覚めた方は、この困難や悲しみに満ちた物質界をあえて好機ととらえ、自分の成長のために最大効率で利用しようとします。
そして、自分のあらゆる能力を伸ばしていくことになります。
健康、体力、生殖能力、知性、知識、見た目の魅力、弁舌、自信、社会的地位――そうした資質を極限にまで高めていきます。
最終的にこの物質界を卒業する資格を得る頃には、その方はいわゆる『成功』をするための資質をすべて達人レベルにまで極め、社会構造の頂点にまで君臨し、多くの他人を従わせる地上の専制君主のような地位まで上り詰めていることでしょう」
弦巻マキ
「へーっ、かっこいい!!
私も目指そっかな〜〜?」
結月ゆかり
「とはいえマキさん、自己奉仕の道はかなり難しいそうですよ。
本来ならば、この世に存在するすべての存在が創造主の分霊であることを悟れば、自然と他人を愛する方向に向かうことになります。
他者奉仕の道のほうが、言うなれば自然な道と言えるのかもしれません。
しかし自己奉仕を目指す存在は、ひとまず他人を無視し、自分の能力を極限にまで活用することで、創造主への奉仕を果たそうとします。
それは、そのほうが創造主に近づくうえで効率が良いという考えのもとの、真摯な考えによるものです。
が、本来身につけるべき『他人への愛』という資質を一時無視するわけで……その分、創造主に近づくうえで、自分の能力だけが頼りになるわけです。
ですから自己奉仕の道は難しく、、他者奉仕を選ぶ方にくらべて非常に少ないようですね。
ラーによれば、私たち人間の何万年という歴史の中で、自己奉仕の道を極めて4次密度存在となったのは、
『チンギス・カン』
『ラスプーチン』
『タラス・ブーリバ』
のたった三名だけだそうですよ。
いずれの方も、自分自身の才覚を霊能力の域にまで高めて、多くの部下を従え、社会の頂点にまで上り詰めたという札つきの豪傑ばかりです。
もし自己奉仕の道を目指すのであれば、自分を高めるためなら努力を努力と思わない、人並外れた自分への愛が必要となるはずです」
弦巻マキ
「えー何それスゴーイ!!!
すごいけど……すごすぎて、ちょっと私には無理そうだなぁ……。
じゃ、もういっこの方は?」
結月ゆかり
「もう一つは他者奉仕の道です。
正電荷が電子を外側へと放つように、他者奉仕を極めた存在は愛を自分の外へ向けます。
すべての他者に対し、別け隔てなく、見返りを求めることなく、なんの条件もつけることなく、愛情を注ぎます。
これは、比較的想像しやすいのではないのでしょうか。
イエス・キリスト、マザーテレサ、その他歴史上数多いる『聖人』と呼ばれるたぐいの方たち……こういった方が、他者奉仕の道の典型ですね」
弦巻マキ
「えーーーー!? こっちも厳しすぎじゃないー!?」
結月ゆかり
「まぁ、それを極められたら、もはや人間界に受肉する必要がなくなり、一つ上の次元に進歩できるという領域ですからね。
そう簡単に達成できるとしたら、返っておかしいということになるでしょう。
何も焦ることはないんですよ。
日々の生活での行動を通じて、徐々に愛のあり方をさぐっていけばいいんです。別に、無理は要求されてないんですからね」
弦巻マキ
「そうは言っても、やっぱりむずかしそうだよぉ〜。
どっちも選ばないでなんとかならないの?」
結月ゆかり
「もちろん、人には自由意志があります。
別に、何かを強制されることはないですよ」
弦巻マキ
「じゃ、じゃあ!?」
結月ゆかり
「ただし、人間の魂の進歩は、ひとまずそのどちらかの方向しかありません。
どちらを選ぶのも自由です。
他人へ愛情を向けるか、自分へ愛情を向けるかというのは、同じことをひとまず別のやり方で表現しているだけに過ぎません。
あるいは、同じ地点を目指すのに、それぞれがいちばん効率が良いと考える道を選んでいるに過ぎません。
だって、自分と他人は、本当は同じものなんですから。
……けど、そのどちらも選択しないというのであれば、永遠に魂の成長を拒絶するのも同義です」
弦巻マキ
「なんだぁ……」
結月ゆかり
「不安に思う必要はないですよ。いずれ、誰にでもその時がやってきます。
人は創造主に近づくことに悦びを感じるものですから、いつまでも拒絶しているのは、そのうちかえって苦痛になってきます。
機が熟せば、きっとマキさんも自ら道を選ぶことになりますよ。
今は、『他者奉仕』か、『自己奉仕』かなどと、日々の生活でいちいち悩むことはないですよ。
納得できない、よく分からないと思えるのであれば、それは単に、マキさんにとってはまだ尚早というだけです。いずれ、必要になったら思い出してみてください。
今は、ご自分の目の前で起きてくることをしっかりと、真正面から取り組んで経験してみてください。
それこそが、マキさんの魂を最も早く成長させる道なんですから」