宇宙創造の目的って?
*深夜、幻想郷・博麗神社境内で寝転がる霊夢と魔理沙*
霧雨魔理沙
「ん~、すごい星空だなぁ。なんだか心が洗われるようだぜ」
博麗霊夢
「あら。あんたにしては、詩的な事を言うのね魔理沙。そう言う事なら少し、面白い話をしてみましょうか。
この星空は――この満点に広がる宇宙は、いったいなんのために生まれたか、なぜそこにあるのか……知ってみたくはない?」
霧雨魔理沙「おぉ!? なんかよくわかんないけど、面白そうだな。いいぜ!」
*霊夢は語り始めた*
博麗霊夢
「この宇宙はなんのためにあるの? あんただって、一度くらいはそういう事を考えたことがあるでしょう? ある人は、ビッグバンという爆発で偶然生まれたと言っている。ある人は、神様が七日で創造したとか言ってる。
でもどれも、欠けてる説明だと思うわ。この精密に作られている宇宙が、まったくの偶然にできあがったですって? ナンセンス極まりないわ。神様が七日で創造? そんな単純なおとぎ話で満足するのは、いまどき子どもくらいでしょう。
ほんとうは、もっと簡単なこと。この宇宙は、あんたが色々な体験を通じて成長する、そのための広大な体験場……広大なゲームのフィールドみたいなものなのよ」
博麗霊夢
「今から、ビックリするかもしれないことを言うわ。あんたは、自分が生まれたのは今の人生がはじめてと思ってるかもしれない。自分が生まれる前には、自分なんていなかったと思ってるかもしれない。
もしかしたら漠然と、『前世があるかも』――と思ってる人もしれないけど。それでも、具体的に前世を想像できる人なんて、あんまりいない。でもね、本当は、『前世があった』どころの話じゃないわ。
あんたという存在は、あんたという魂は、この宇宙の誕生と同時に……いえ、それよりずっと以前から、無限の過去から存在し続けてきた。なぜなら、あんた自身が創造主……創造主の一部だから。
何億年という期間をかけて、すでにいろいろな体験を、あんたはいろいろな形で積み重ねてきたのよ。ただ、今はそのことを忘れているだけ。粒子や分子、空気や火、水や土、細菌やアメーバ、植物や動物――いろいろな形をとって、気の遠くなるような肉体の進化と魂の成熟を経て、いまあんたはここに立っている。
……寝てるけどね。
ねえ、人間が、どれだけのものを手に入れてきたと思う? 抽象的な思考力、自我、社会性、直立二足歩行、よく見える目、ものを掴める手、複雑な発声器官……そんなすぐれたものを手に入れて、精神と肉体を進化させて、ようやく今、ここに人という形で存在できているのよ。
ある日突然、あんたの魂や肉体が生じたんじゃない。あんたが人間としてここにいるのは、長い長い旅路を踏破してきたという証拠。あんたが、正当な努力をしてきたということの証明だわ。
……でも、まだまだ旅路が終わるわけじゃない。あなたという存在は、こんな短い人生一回で終わるわけじゃないわ。あんたはこれからも、何度も何度も、何十億年という時をかけて、だんだんと、けどいくらでも成長していくの」
霧雨魔理沙
「ふ~ん……で、それが宇宙と何の関係があるんだ?」
博麗霊夢
「いま話すとこよ。いいかしら。魂の進化の階段を登るたびに、あんたは少しずつ、少しずつ、人間的な欠点を取り除いていくでしょう。
その代わりに、もっとすぐれた資質で置き換えていく。もちろん、そう易々とはいかないわ。これまでがそうだったように、気の遠くなるような……いえ、それどころか無限の時間がかかるでしょう。
けれどあんたは、私たちは、いずれその時間という枠すら超越することになる。そして、この無限の宇宙でなすべき体験をし尽くした時、完全な存在へと戻る。つまりは、この宇宙を生み出した創造主と、一体に戻るでしょう。
宇宙は、私たちがそういう営みをするために、作り出した場所というわけ」
霧雨魔理沙
「へぇ……そうなのか。でも、うぅ~ん……。なんで、『体験』なんかする必要があるんだぜ?
だって、そんなすごい創造主なら、そのままでいればじゃないか? わざわざ、なんで体験なんてしてるんだぜ?」
博麗霊夢
「なら、ちょっと想像してみなさいよバカ」
博麗霊夢
「創造主というのは、無限の存在なの。……いっておくけど、無限というのは、『たくさんある』ということじゃないわ。そうじゃなくて、『あらゆる要素を含んだ』『統合した』という意味。
大きいのも小さいのも、男も女も、叡智も無知も、愛情も憎しみも、すべてをその中に含んだ存在。想像してみて。そんな完全な存在がいたら、いったいどうなると思う? 何をしたくなると思う?
完全でいるのは、楽しいかもしれないけど、いつかは退屈で飽きてしまうでしょうね。そのうち、『無限』の自分にいったいどんな可能性があるのか、試してみたい――そう思うようになるのではないかしら。現に、そうなの。
だからこの宇宙は、創造主のための体験場なの。無限の創造主が、自分自身を無限の構成要素に分割して、単原子からはじまりふたたび創造主に戻るまで、無限の旅路を体験する事……それによって、自身の無限の可能性の一端を知る事。
創造主による、創造主自身を知るための、広大な体験フィールド――それこそが、この宇宙の正体。私たちが、宇宙に暮らしている根本的な理由だわ。
私たち一人一人が、創造主の子どもみたいなものなんだから。いずれ、元に『戻る』のは当然でしょ?」
霧雨魔理沙
「なるほど……スケールがでかすぎてよくわからんけど、分かったぜ」
博麗霊夢
「ほんとに? ……なら、星空を見上げた時だけじゃなく、いつでもそのことを心に留めておきなさい。
私たちは、無限に長い旅路を歩いている旅人のようなモノ。この宇宙は、そのために用意された旅路。私たちはけっして、宇宙の片隅に偶然生まれた、ちっぽけなどうでもいい存在じゃない。大きな目で見れば、後にも先にも、私たちのために用意された無限の体験が広がっていることが分かるはずよ。
今の人生が終わったら、また次の体験が始まる。そこで、私たちは好きなだけ色々な体験をすることができる。時間制限なんてないわ……だって無限だもの。もちろん時間を無駄にしていいと言っているわけじゃないわ。でも、今のあんたに、一生懸命やっても果たせなかったことがあったとしたら、それは次の旅で必ずまた挑戦することができる。
苦しいことがあったとしても、いずれは乗り越えて、癒えて、また別の体験がはじまる。乗り越えられないほどの難題を課せられることはありえないわ。だから、小さなことでくよくよする必要なんてないのよ。
いい? そんなつまんないものを、あんたの心に詰めようとしないで。その代わり、この星空を、いつでも心の中に敷いておいたらいいのよ」
*その後もしばらく、二人は縁側に寝転がり、星空を眺め続けていた。*