あなたこそが創造者
あなたこそが創造者
霧雨魔理沙
「あ〜〜〜なんかイライラするぜ……」
霧雨魔理沙
「それが聞いてくれよ、ひどいんだぜ。人里のガラの悪そうなチンピラどもに遭ったんだけど、私のことをキノコ女って言うんだ!」
博麗霊夢
「森でキノコばかりいじってるからでしょう」
霧雨魔理沙
「海より広い心の魔理沙さまでも、あいつらはゆるせん! 今度あったらとっちめてやる!」
博麗霊夢
「『ゆるさない』ねぇ……。さてさて、そんなゆるせない奴を作り出したのは、いったいどこのどいつなのかしら」
*霊夢は語りはじめた*
博麗霊夢
「結論から言うわ。そのムカつく奴を作り出し、あんたの目の前に連れてきたのは、他でもない当のあんた自身なのよ。魔理沙」
霧雨魔理沙
「……は?」
博麗霊夢
「そいつらは、あんた自身が創造したもの。なぜかって? それはあんたが創造主だからよ……深い意味ではね。
私たちはすべて、この宇宙を産み出した創造主の分霊たる存在。誰もが、身の回りの全てを、毎秒毎秒創造している。
あんたの身の回りに起きることで、あんたが創り出したのでない事は一つもない。それが答えよ……。
まだ分からないって顔をしているわね? いつか言ったでしょう。この宇宙は、無限の創造主が自分自身を知るための、無限の体験フィールドだと。
この宇宙に存在するもので、創造主でないものはない。なら何故、そこからあんたが除外されると思うの? あんただって、この宇宙の創造主の子ども……いえ、創造主自身なのよ」
霧雨魔理沙
「と言われても、実感が湧かないぜ……」
博麗霊夢
「無理もないことだわ。ふだんは、意識することがないでしょうから。……創造主としてのあんたは、あんたの潜在意識の奥深くに隠れてるもの。
通常、自分の意識ではっきり認識できることはないでしょう。『イヤな奴』を自分で創り出しておいて、あとから勝手に「ムカつく!」だなんて、無責任なことをしているのも、それが原因だわ」
霧雨魔理沙
「じゃあダメじゃねーか!」
博麗霊夢
「そうでもないわ。たとえ、どれほどイヤなことや辛いことが起きようと……それは、あんた自身が創り出した、という事なのよ?
なら、あんたが深い所で許可しない限りは、何も起こらないという事。あんたの魂を傷つけるような事は、決して起こらないという事。あんたの糧にならない事は、何も起こらないという事。
『くだらない奴』に絡まれて腹を立てるという事は、あんたにはまだ、そこから学ぶべき何かが残ってるという事よ。
そうでないとしたら、そんな奴があんたの目の前に現れるわけがないわ」
霧雨魔理沙
「あんな連中から何を学べっていうんだぜ!」
博麗霊夢
「そのくらい自分で考えなさい。まぁ……いつも人の物を盗んでばかりいるあんたには、良い薬だったんじゃないの?」
霧雨魔理沙
「う!? あ、あははは……」
博麗霊夢
「目が笑ってないわよ、魔理沙……。ま、人間だから、腹を立ててしまうのも分かるけど……それでも、その腹の立つ原因は、あんた自身が創り出したのよ。
あんたの身の回りにある事、全てがあんたから生み出されんたんだから。身の回りに起こる事――いいえ、宇宙で起こることは、全てはあんた自身の責任なの。
別に、チンピラに絡まれるだけじゃないわ。道端でこけるのも、身の回りに気に入らない人がいたとしても、事故や災害で死んでしまうのも……ぜんぶ自分自身の責任だわ」
霧雨魔理沙
「ちょ、ちょっと待てだぜ! そんなの、ぜんぶ偶然じゃないか。
私の責任なもんか!」
博麗霊夢
「ううん。この世に『偶然』で起きることなんて一つもない。
すべて創造主の配剤あってのこと、それなりの意味があって起きるのよ」
霧雨魔理沙
「そ、そうなのか……? でも、事故やなんかを起こして、いったい何の意味があるんだぜ?」
博麗霊夢
「……それは要するに、どうして悪い事が起きるのか? という話かしら。それだけで何文字もかかりそうな話題だし、今日はよしておくわね」
霧雨魔理沙
「逃げるなだぜ!」
博麗霊夢
「ひとまず、悪い事もあんたにとって糧になるんだと考えておけばいいわ。……それで分かったでしょう?
あんたの周りに起きたことに対して、不満を漏らしたってしょうがないわ。素直に向き合うしかないの。そうじゃなければ、せっかく起こした意味がないでしょ?
……でも、その代わり、それはあんた自身が起こしたことなんだから、あんたが傷つけられることはない。無理な課題を課せられることもない。
だから、安心していいのよ。不安なんて、本当は必要ないものだわ。身の回りに起きることが自分にはどうしようもないと思うから、不安になるんでしょう?
でもそうじゃない。全てあんた自身が仕組んだのだから、それを乗り越える力も、かわす力も、絶対にあんたは持っている。それが、当然の道理じゃない?」
霧雨魔理沙
「そうかなぁ……でも、あいつらのせいで私は傷ついたぜ!」
博麗霊夢
「……図太いあんたが、その程度で傷つくとは思えないけど」
霧雨魔理沙
「霊夢にだけは言われたくないぜ! 大体、今回みたいのはともかく……たとえば事故に遭って死んじまったりしたら、思いっきり傷ついてることになるじゃないか」
博麗霊夢
「傷つくのは肉体だけ。人間の本質は肉体ではなく魂――霊なのよ。肉体は滅びることがあっても、魂は滅びない。
霊を傷つけることができるものなんて、この世にもあの世にも存在しないわ……もちろん、肉体を粗末にしていいと言っているわけじゃないけどね。
ともかく、どうして怒る必要があるの。もともと、あんた自身が起こしたことなのに。そんなことが起こったわけは……いろいろ考えられるけど、どうかしらね。
いつもあんたは人のものを盗んでばかりだから、たまには逆の立場も経験しておきなさい――と、いうことなのかしら」
霧雨魔理沙
「うっ……! だから、それは言わない約束だぜ……」
博麗霊夢
「ぷっ……。まぁ、『なんで私がこんな目に!』って思ってしまうことも、たまにはあるかもしれないわ。でも、イヤだとか怖いとか思うことが、実は一番、その人にとって薬になるということが多いのよ。
あんたにだって、そういう経験があるんじゃない? 当のその時はイヤでイヤで仕方なかったことでも、あとから振り返ってみたら、けっきょくそうなるのが、自分にとって一番よかったって分かった……みたいなこと。
深い所に隠れた、創造主としてのあんたは、全てが見えている。これまであんたが何を学んできたか、そしてこれから何を体験していくのか……その慧眼にまかせていれば、心配はいらないわ。何も心配はいらない。
思い出してみて。誰だって、苦しかった経験のひとつやふたつ、あるはずよ。そんな経験をしたからこそ得られたものが、あんたにはあったんだってこと……。これからも同じ。これからあんたの身に起こる困難も、あんたの力で乗り越えられるものしか起こらない。あんたは、何も傷つくことはない。
安心して、ほんの100年にも満たないこの世の一瞬を、楽しみに過ごしたらいいのよ」