因果応報・因果律
因果応報・因果律
弦巻マキ
「ふふふ〜〜んっと♪」
結月ゆかり
「どうしたんですかマキさん。やたら機嫌がいいですね」
弦巻マキ
「それがね、聞いてよ〜! 今日、ドラッグストアで湿布買ったんだけど――」
結月ゆかり
「なんだか、若者らしくない買い物ですね」
弦巻マキ「あー、私、かなり肩凝るタイプだからさ。それはともかく、買うときに店員さんが間違ってお釣り500円多くくれたんだよ〜!
気づいてないみたいだから、そのままもらっちゃった。らっきー!」
結月ゆかり
「なるほど……ですが、それは返したほうがいいのではないですか?」
弦巻マキ
「だいじょぶだいじょぶ、別にバレないし〜、私何もしてないし〜」
結月ゆかり
「はぁ……」
*ゆかりは語りはじめた*
結月ゆかり
「マキさん。マキさんは、『天網恢恢(てんもうかいかい)、疎(そ)にして漏らさず』という言葉をご存知ですか?」
弦巻マキ
「んーーー……なんとなく聞いたことはあるけど、
意味はわかんないね」
結月ゆかり
「老子のことばです。ひらたくいうと、誰にもバレてないつもりでも、お天道さまはぜんぶ見てるということですよ。
……しかし、実は見ているだけではないんです。自分がしたことは、すべて自分に跳ね返ってくるんです。
因果応報、今風に言えば因果律というやつですね」
弦巻マキ
「やっぱり聞いたことはあるけど、あんまり意味はわかんないなぁ……」
結月ゆかり
「中身はかんたんですよ。善い事も悪い事も、自分がしたことの結果は、すべて自分に跳ね返ってくるようになっているんです。
たとえば……物を盗んだ人は、逆に盗まれる側も体験するんです。殺した人は、あとあと、殺される側も体験することになります。もちろんそういう悪い事だけじゃありませんよ。良いことだって同じです。
他人にしてあげたことは、自分に返ってくるんです」
弦巻マキ
「ふ〜ん? ……あれ、でもさー。それだったら、生まれてすぐ死んじゃった子どもとかはどうなるの?
別に、そういう赤ちゃんって、何も悪い事してないじゃん?」
結月ゆかり
「いい質問ですね。そういう方はきっと前世で、何か報いを受けるべきことをしたんじゃないでしょうか。
今生では、とくに何もしてないとしても、前世で重ねた負債がチャラになるわけではありませんからね。私たちの目には今の人生しか映りませんし、前世も来世も分かりません。
ですから、一見、悪い事ばかりしてる人が良い目にあったり、その逆もたくさんあるように見えます。この世の中は、とんでもない不公正な世界に見えます。
でも、実際はそうではないのです。大きなスケールで因果律が働いていて、何十年、何百年とかけて原因と結果は繰り返されています。そのほんの一部を、人間が近視眼的に見てしまうと、不公正な世界のように見えてしまいますが……
そういうわけではないんですよ。本当は、不公正どころの話じゃありません。人間のとる一挙手一投足、発した言葉の一言、頭の中で考えたことの一片に至るまで、創造主の記録情報として納められているんです。
誰かにバレないようにこっそり何かをしようとしても、無駄です。すべて、見られているんですから」
弦巻マキ
「な、なるほど……。本当に、お天道様が見てるわけね。
でも、なんか見られてると思うと、落ち着かないなぁ……」
結月ゆかり
「別に、窮屈に感じる必要はありませんよ。何も無理を要求されてるわけではありません。しょせん私たちは人間ですし、どうしても妙な考えを持ったりします。
怒ることもありますし、誰かを呪いたくなることもあるかもしれません。そういう雑念が沸いてきたら、静かなところで目をつぶって、自分の心をじっくりと見つめて下さい。
自分の感情、心……どうしてそんな思いが湧いてくるのか、深いところで問い続けて下さい。そうしているうちに、良くない感情は薄まっていくはずです。
間違っても、そんな感情を行動に移さないでくださいね」
弦巻マキ
「た、確かに、感情任せでやるとまずいってのは分かるよ。でもまぁ
、それだったら、そんな感情が湧かないように、人間を創ればよかったのにね……」
結月ゆかり
「いえいえ。それはムリな相談ですよ。怒りとか、強欲とか、恨みとか、そういうよろしくない感情も、必要なものなんです。
必要どころか、必要不可欠です。かんがえてもみてください。人が、何かに強く感情を抱くということは、その何かに強く「こだわっている」という事ですから。
そうした感情が湧いてくることで、自分が何にこだわっているのか、ということが間接的に分かるようになっているんです。たとえば……ちょっとでもお金を損したら、すぐに怒ったり悔しがったりする人がいるとします」
弦巻マキ
「あー、よくいるよねそういう人」
結月ゆかり
「ほんの数百円得して喜んでるマキさんも、人の事は言えないと思いますが……ともかくその人は、『どうして自分はこんなに怒ってるのか?』そう考えることで、自分の心の中を知ることができます。
自分は、お金にやたらとこだわっている人間だったんだ、ということが分かるのです」
弦巻マキ
「そんなの、普通に分かるんじゃないの?」
結月ゆかり
「意外と、自分の事はみんなよく見えていないものですよ。まして、心の中がどうなっているか、自分がどんな価値観を持っているかとなれば……
何十年、いえ、一生気づかないで過ごす人も多いと思います。だからこそ、自分の感情が目印になるのです。
やたらと強い感情が何度も沸いてくるようでしたら、それは、『いったい自分のどんな価値観が、そんな感情を起こさせてるのか』、心の中を調査するいい機会だと思ってください。
ただし、自分の心の中をじっくり振り返るには、静かな時間が必要です。誰にも邪魔されないところで、目をつぶって、リラックスして……瞑想するように、自分の中を見つめて下さい。
そこで自分の価値観に気づけば、それを和らげることもできます。……でも、それをしないと感情がそのままになり、いずれ実行に移してしまうというわけです。
でも妙な事をしてしまったら、後が大変ですよね。その行動はいずれ、自分自身にそっくりそのまま跳ね返ってくるのですから。だから、自分の中の感情を放置しないでください。自分で自分を不幸に陥れる前に、自分の心のバランスを取って下さい。
自分の心を、お手入れしてください。もともとそれこそが、悪感情がこの世に存在する理由なんですから」
弦巻マキ
「うーん、なんか難しそうだなぁ……」
結月ゆかり
「別に難しいことありませんよ。ゆっくりと自分の心を見つめるだけです。何をしろというわけでもありません。
むしろ、悪感情を放置して、とんでもないことをしでかして、その因果を後で背負わされるよりはるかに楽じゃないですか?」
弦巻マキ
「なるほど……それもそっか」
弦巻マキ
「ゆかりんの言いたいこと、まあ大体わかったけど……でも、なんで因果律なんてのがあるのかなぁ?
ちょっとでも変なことしたら全部返ってきちゃうって、やっぱり窮屈だよね」
結月ゆかり
「因果律というのは、別に悪い事にだけ適用されるわけではないんですよ。良い事だって同じです。
例えば、何かの能力に優れてる人というのがいますが、それも、別に偶然、運よくそうなったわけではありません。そういった方は、その能力を得るにふさわしい努力を積み重ねてきたからそうなっているのです。
生まれつき何かに優れている方も、その分、前世で努力を重ねてきたからそうなったのです。不当に恵まれているとか、そういう人というのはいないんです。
創造主はすべての人に対して平等ですから。いかがですか? もしそうでなかったら、どうなってしまうと思います?
たくさん研鑽を積んできた方と、ほとんどそうした事をせず怠けてきた方が、同一に扱われるとしたら?
いつも笑顔で親切な方と、他人など顧みない利己的な方が、同じ目に遭うとしたら?
そんな不公平な事になるのであれば、この世に生まれて、苦労して自分の能力を開発する意味なんてないことになります。
それに加えて……自分のやったことの結果が返ってこないなら、いったい自分がしたのはどういうことなのか、客観的に見る手段が失われるという事でもあるんですよ」
弦巻マキ
「あ、そっか……」
結月ゆかり
「因果律があるから、人はこの世に生まれていろいろな体験を積むことができるのです。それがなかったら、だんだんと研鑽を重ね、やがて創造主と一体に戻るという、創造主による創造主のための体験ゲーム場であるこの宇宙が、機能しなくなってしまいます。
……まぁ、こういった壮大なことは、特に日常生活で意識しなくても結構です。ただ自分のやった事は、よくもわるくもすべて自分に跳ね返ってくるという事。
これさえ意識しておけば、ずいぶんと生きやすい人生になると思うのです」
弦巻マキ
「そりゃそうだね。ありがとゆかりん~~。私、おつり返してこようっと」